半田市生まれの童話作家新美南吉の記念館は1991年オープンコンペが行われ、新家良浩他2名の案が最優秀となり、新家良浩設計工房の設計によって1994年竣工した。
建物のほとんどを地下に埋めて、地上にみえる部分の屋根をスパン毎に異なる起伏で波状にうねらせて緑化し、大地と一体化させるというなかなか大胆なもので、当時はエミリオ・アンバースをはじめとする建築家によるさまざまな緑化提案がなされていた時期であったことから、一度見てみたいと思いながらなかなか機会がなかったのだが、赤レンガ工場の見学を機に足をのばしてみることとした。
現地に着いて驚いたのは、建物前の広場で子供たちの模擬店のような催しが行われていて、大変賑わっていたことである。広場に備え付けられた木製デッキのステージを中心にして、模擬の青空市場を楽しんでいるようであった。祝日ということもあるのだろうが、外構部分がこのように楽しげに使われているのは、芝生広場に留めて造り込み過ぎなかったことが好結果をもたらしているのだろう。
広場の芝生はそのまま建物の屋根へと続き、芝生と建物が違和感なく一体化している。スロープ状の屋根の少し上ったところに生垣を設けて、それ以上先には行けないようになっているのは少し残念であるが、安全確保と屋根のイメージを保つためにはいたしかたないのかもしれない。
屋根の芝生は外壁の際まできれいに生え揃っていて、パラペットの立ち上がりが見当たらない。どういうディティールになっているのか興味を覚えたが、雨漏りしそうだなあと思いながら入館してみると、想像していたとおりその跡と思われる個所がいくつか見受けられた。他にも内部構成は多少強引なところがあり、用途不明のエントランスホールの中2階や、展示室への二重の動線など、空間構成や動線処理に難があるように感じた。また、床が屋根とおなじようにうねっているのはどういう理由によるのだろうか。
外観に話を戻すと、建物が形を消して緑に包まれたやわらかい印象を受けるのは大変好ましいのだが、道路側のファサードは壁面が屹立するのみでもう少しなんとかならなかったのだろうかと残念に思った。
館内はボランティアの方々が親切に説明に努める姿が印象的であった。郷土が生んだ童話作家にたいする尊敬と誇りの念を持っておられるが故なのだろう。
新美南吉は「ごんぎつね」をはじめとする数々の優れた童話を残しながら、結核のためわずか29才で亡くなっている。秋の夜長を南吉が残した童話の一頁でもめくって過ごすこととしよう。
(写真は、上段:広場からみた外観、下段:左からごんぎつねの像、屋根の重なり、道路側外観、エントランスホール、展示室)
(2015/09/25)