世界一巾の狭い住宅が完成という記事が昨年ウェブ上であった。イスラエル人の作家Etgar Keret氏がポーランドのワルシャワに建てたもので、設計はポーランドの建築家Jakub Szczesny、常駐の住まいではなく当地に於ける仕事場との事である。
この住宅は最も広いところで巾5フィート(約150cm)、狭いところで3フィート(約90cm)、奥行きは10m以上ありそうだが、いくら奥行きがあってもこの巾では廊下と階段を並行して確保することはできないので、メインフロアである2階に上がってからは、ハシゴで上階に上がることになっている。それでも巾の広い部分に通路を確保した上で机や洗面台、洗濯機などをレイアウトすることは可能であるので、2人くらいまでならば生活することは可能ではないかと思う。
ところで、狭小住宅といえば日本の住宅の代名詞のようになっている。よく知られた住宅で最も間口の狭いものは一体どれくらいなのだろうか。すぐに頭にうかぶのは、安藤忠雄の「住吉の長屋」であるが、これは外壁芯々で3.3m、外壁は厚みわずか15cmで内外とも打ち放しであるから、内法は3.15m。同じような構成で3階建てとした「細工谷の家」が外壁芯々で3.2m、内法は3.0m。岸和朗の「日本橋の家」は鉄骨柱芯々で2.5m、外壁アスロックの芯々で約2.9m、柱面まで壁をふかした最上階のLDKは内法で約2.3m。「KIM HOUSE」が、鉄骨柱芯々で2.58m、外壁アスロックの芯々で約2.96m、内法はアスロックをあらわしとしていることから約2.9mとなっている。
以前「日本橋の家」を見学する機会があった。内法2.3mの室内はかなり息苦しく感じるのではないかと予想していたのだが、道路側が全面開口となっていることからか、息苦しさは全くなく、天井高5.0mの最上階LDKは逆に開放感すら覚えたことを思い出した。空間は体験しなければわからないものである。
ただし、今回のワルシャワの住宅は日本橋の家の半分の巾しかない。さすがに閉所恐怖症の人間にはちょっとおすすめできないことは無論であるが、普通の人間でもあまり長時間経てば息苦しく感じるのではないだろうか。
ちなみに、同様の試みは日本では残念ながら不可能。建築基準法では、建物の建てられる敷地は2m以上道路と接していなければならないという接道規定があるからだが、長手方向が道路に接した奥行1mの土地であればもちろん可能である。どなたかそんな敷地に建ててみたいという奇特な方はおられないだろうか。ただし生活の質は保証しかねる。
(「ワルシャワの住宅」の写真と断面パースはDaily Mailウェブ版より転載。図面は上から「日本橋の家」の各階平面図、「住吉の長屋」の各階平面図、「日本橋の家」「住吉の長屋」「ワルシャワの住宅」の立面図)
(2013/02/16)